5人以上の従業員を雇用している士業の個人事務所は令和4年10月から社会保険の加入が必要です

1.任意加入から強制加入へ

 現行の社会保険制度では、常時5人以上の従業員を雇用している個人事業所のうち、法定16業種については「健康保険(協会けんぽ)・厚生年金」(以下「社会保険」といいます)への加入が強制されます。
 法定16業種とは、製造業・土木建築業・鉱業・電気ガス事業・運送業・貨物積みおろし業・清掃業・物品販売業・金融保険業・保管賃貸業・媒介周旋業・集金案内広告業・教育研究調査業・医療業・通信報道業・社会福祉事業及び更生保護事業をいいます。
 一方、5人以上の従業員を雇用する個人事業主でも、法定16業種に該当しない農業、漁業、一部のサービス業(旅館、飲食、理美容業、弁護士事務所、税理士事務所など)を営む者は、社会保険への加入が任意とされています。
 したがって、従業員を5人以上雇用している個人経営の税理士事務所などの士業事務所は、現行の社会保険制度では社会保険への加入義務はありませんでした。
 しかし、社会保険の適用を拡大する等を目的とした「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立し、2020(令和2)年6月5日に公布されました。
 その結果、これまで社会保険の適用業種でなかった税理士をはじめ、公認会計士、弁護士、司法書士など10の士業についても、常時5人以上の従業員を雇用している個人事務所は強制適用業種に加えられ、2022(令和4)年10月1日から社会保険の加入が強制されることとなりました。

※ただし、法施行日(2022(令和4)年10月1日)の前日までに税理士国保に加入し、かつ所轄の年金事務所に「健康保険被保険者適用除外承認申請書」を提出し承認されれば、協会けんぽではなく税理士国保を選択することができます(厚生年金は強制適用です)。

2.10の士業とは?

(1) 10の士業
 今回の改正の適用対象となる「10の士業」は、次のとおりです。

弁護士、沖縄弁護士、外国法事務弁護士、公認会計士、公証人、司法書士、土地家屋調査士、⾏政書⼠、海事代理⼠、税理⼠、社会保険労務士、弁理⼠

(2) 被保険者
 今回の改正で、常時5人以上の従業員を雇用している個人の士業事務所は社会保険の強制適用事業所となりますが、「常時5人以上の従業員」とは、正社員に加え、週の所定労働時間及び月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している正社員の3/4以上の従業員をいいます。
 従業員にはパート・アルバイトの方を含み、日々雇い入れられる方などの「常時使用される」者でない場合は含まれません。また、外国人であっても加入要件を満たした場合は、国籍を問わず被保険者になります。
 なお、個人事業所の事業主は、社会保険の被保険者になりません。

※社会保険の加入要件については、本ブログ記事「外国人・年金受給者を雇用した場合や試用期間中の社会保険の取扱い」をご参照ください。

個人経営の飲食業・理美容業等は社会保険加入を強制されない

 会計事務所に寄せられる相談は税金のことだけではありません。先日も飲食業を営む個人事業主さんから、社会保険に関する次のような質問を受けました。
 「従業員を10人に増やしたいが、社会保険に加入しなければならないか?」 

1.個人事業は5人以上の雇用で強制加入

 法人の場合、たとえ1人でも従業員を雇ったときは、社会保険(健康保険・厚生年金)に加入しなければなりません。
 個人事業の場合は、5人以上の従業員を雇ったときは社会保険の加入が強制されます。
 では、10人の従業員を雇用する個人経営の飲食店に社会保険の加入義務はあるのでしょうか?

2.「法定16業種」以外は任意加入

 答えは「否」です。
 5人以上の従業員を雇用する個人事業主でも、「法定16業種」に該当しない農業、漁業、一部のサービス業(旅館、飲食、理美容業、弁護士事務所、税理士事務所など)を営む者は、社会保険への加入が任意とされています。
 したがって、個人経営の飲食店は、5人以上の従業員を雇っても社会保険の加入を強制されることはありません。

※ 被用者保険(健康保険「協会けんぽ」・厚生年金)の適用を拡大する一環として、これまで被用者保険の適用業種でなかった税理士をはじめ、公認会計士、弁護士、司法書士など10の士業についても、常時5人以上の従業員を使用している個人事務所を強制適用業種に加えることとした「年金制度機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が2020(令和2)年の通常国会で成立し、公布されました(2022(令和4)年10月1日から施行)。改正内容については、本ブログ記事「5人以上の従業員を雇用している士業の個人事務所は令和4年10月から社会保険の加入が必要です」をご参照ください。

3.「法定16業種」とは?

 法定16業種とは、製造業・土木建築業・鉱業・電気ガス事業・運送業・貨物積みおろし業・清掃業・物品販売業・金融保険業・保管賃貸業・媒介周旋業・集金案内広告業・教育研究調査業・医療業・通信報道業・社会福祉事業及び更生保護事業をいいます。

外国人・年金受給者を雇用した場合や試用期間中の社会保険の取扱い

1.健康保険・厚生年金保険の加入要件

 健康保険・厚生年金保険は正社員だけではなく、法人の代表者や役員も被保険者になります。
 また、パートやアルバイトの方でも、1週間の所定労働時間及び1ヶ月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している正社員の4分の3以上である場合は、被保険者になります。
 さらに、正社員の4分の3未満であっても、次の5要件をすべて満たす方は被保険者になります。

(1) 週の所定労働時間が20時間以上
(2) 勤務期間が1年以上見込まれること
(3) 月額賃金が8.8万円以上
(4) 学生以外
(5) 従業員501人以上の企業に勤務していること

※ (2)の要件は、2022(令和4)年10月以降は「1年以上」が「2か月を超える」見込みであることに変わります。
 また、(5)の要件は、2022(令和4)年10月以降は「501人以上」が「101人以上」に、2024(令和6)年10月以降は「51人以上」に変わります。
 
 では、次のような場合の被保険者はどのようになるのでしょうか?

2.外国人を雇用した場合

 上記1の加入要件を満たす方は、国籍を問わず被保険者になります。

3.年金受給者を雇用した場合

 70歳未満で老齢厚生年金(特別支給を含む)を受給している人を雇用した場合でも、上記1の加入要件を満たす方は被保険者になります。

4.試用期間中の場合

 法律上の雇用契約や本人の同意にかかわりなく、上記1の加入要件を満たす方は、試用期間中であっても被保険者になります。