1.改正案の概要
国税庁は2019年(平成31年)4月11日、法人向けの節税保険に対応した法人税基本通達の改正案を公表しました。
改正案では、ピーク時解約返戻率(最高解約返戻率)が50%以下の定期保険等に係る支払保険料については、契約年齢や保険期間の長さによらず全額損金算入が可能です。
一方、ピーク時解約返戻率が50%超の定期保険等に係る支払保険料については、ピーク時解約返戻率に応じた一定の金額を資産計上し、残額を損金算入することになります。
ピーク時解約返戻率 | 資産計上期間 | 資産計上額(残額は損金) |
---|---|---|
50%以下 | なし | 全額損金算入 |
50%超70%以下 | 保険期間の前半4割相当の期間 | 支払保険料の4割 |
70%超85%以下 | 支払保険料の6割 | |
85%超 | 保険期間からピーク時解約返戻率となる期間等の終了日 | 支払保険料×ピーク時解約返戻率の7割(保険期間開始日から10年経過日までの期間は9割) |
今回は、改正案に基づく支払保険料の経理処理を、具体的な数値を用いて確認していきます。
2.ピーク時解約返戻率に応じた経理処理
(1) ピーク時解約返戻率が50%超70%以下の場合
① 経理処理の概要
・資産計上期間(保険期間の前半4割)は支払保険料の4割資産計上6割損金算入
・資産取崩期間(保険期間の7.5割経過後)は資産計上額を取崩し
・資産計上期間と資産取崩期間の間の期間(保険期間の3.5割)は全額損金算入
ただし、被保険者1人当たりの年換算保険料相当額(保険期間中の支払保険料総額÷保険期間の年数)が20万円以下(複数の定期保険等に加入の場合は合計額)であれば、全期間を通じて全額損金算入します。
※改正案(パブリックコメント原案)では、上記のように被保険者1人当たりの年換算保険料相当額が20万円以下とされていましたが、2019年(令和元年)6月28日に国税庁ホームページで公表された「法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」では30万円以下とされました。
4割期間 | 3.5割期間 | 2.5割期間 |
---|---|---|
4割資産6割損金 | 全額損金 | 全額損金+資産取崩 |
② 経理処理
例えば、40歳契約・100歳満期・年払保険料100万円・ピーク時解約返戻率70%の場合の仕訳は次のとおりです。
イ.資産計上期間(4割期間):40歳~64歳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
支払保険料 | 60万円 | 現金預金 | 100万円 |
前払保険料 | 40万円 |
ロ.イとハの間の期間(3.5割期間):65歳~85歳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
支払保険料 | 100万円 | 現金預金 | 100万円 |
ハ.資産取崩期間(2.5割期間):86歳~100歳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
支払保険料 | 164万円 | 現金預金 | 100万円 |
前払保険料 | 64万円 |
(2) ピーク時解約返戻率が70%超85%以下の場合
① 経理処理の概要
・資産計上期間(保険期間の前半4割)は支払保険料の6割資産計上4割損金算入
・資産取崩期間(保険期間の7.5割経過後)は資産計上額を取崩し
・資産計上期間と資産取崩期間の間の期間(保険期間の3.5割)は全額損金算入
4割期間 | 3.5割期間 | 2.5割期間 |
---|---|---|
6割資産4割損金 | 全額損金 | 全額損金+資産取崩 |
② 経理処理
例えば、40歳契約・100歳満期・年払保険料100万円・ピーク時解約返戻率85%の場合の仕訳は次のとおりです。
イ.資産計上期間(4割期間):40歳~64歳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
支払保険料 | 40万円 | 現金預金 | 100万円 |
前払保険料 | 60万円 |
ロ.イとハの間の期間(3.5割期間):65歳~85歳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
支払保険料 | 100万円 | 現金預金 | 100万円 |
ハ.資産取崩期間(2.5割期間):86歳~100歳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
支払保険料 | 196万円 | 現金預金 | 100万円 |
前払保険料 | 96万円 |
(3) ピーク時解約返戻率が85%超の場合
① 経理処理の概要
・資産計上期間は、保険期間の当初10年間は支払保険料の「ピーク時解約返戻率×9割」、それ以降(※)は支払保険料の「ピーク時解約返戻率×7割」を資産計上
・解約返戻金額が最も高くなる時期(返戻金額ピーク)から資産計上額を取崩し
・資産計上期間と資産取崩期間の間の期間は全額損金算入
(※)「それ以降」の期間とは、10年経過後、「解約返戻率ピーク」又は「年間の解約払戻金の増加額が年換算保険料相当額に対して70%以下になるまで」のいずれか遅い方までの期間です。
当初10年間 | それ以降 | 間の期間 | 取崩期間 |
---|---|---|---|
「ピーク時解約返戻率×9割」を資産計上 |
ピーク時解約返戻率×7割」を資産計上 |
全額損金 | 全額損金+資産取崩 |
② 経理処理
例えば、40歳契約・100歳満期・年払保険料100万円・ピーク時解約返戻率90%の場合の仕訳は次のとおりです。
イ.資産計上期間(当初10年間):40歳~50歳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
支払保険料 | 19万円 | 現金預金 | 100万円 |
前払保険料 | 81万円 |
ロ.資産計上期間(それ以降):51歳~72歳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
支払保険料 | 37万円 | 現金預金 | 100万円 |
前払保険料 | 63万円 |
ハ.間の期間(返戻金額ピークまで):73歳~91歳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
支払保険料 | 100万円 | 現金預金 | 100万円 |
ニ.資産取崩期間:92歳~100歳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
支払保険料 | 344万円 | 現金預金 | 100万円 |
前払保険料 | 244万円 |
※資産計上期間(それ以降)の考え方
経過年数 | 支払総保険料 | 解約返戻金 | 解約返戻率 | 解約返戻金の増加率 |
---|---|---|---|---|
1年 | 100万円 | 66.4万円 | 66.4% | |
2年 | 200万円 | 158.8万円 | 79.4% | 92.4% |
… | … | … | … | … |
24年 | 2,400万円 | 2,272.8万円 | 94.7% | 96.7% |
25年 | 2,500万円 | 2,369.1万円 | 94.8% | 96.3% |
26年 | 2,600万円 | 2,447万円 | 94.1% | 77.9% |
27年 | 2,700万円 | 2,523.6万円 | 93.5% | 76.6% |
28年 | 2,800万円 | 2,599.4万円 | 92.8% | 75.8% |
29年 | 2,900万円 | 2,674.4万円 | 92.2% | 75.0% |
30年 | 3,000万円 | 2,748万円 | 91.6% | 73.6% |
31年 | 3,100万円 | 2,820万円 | 91.0% | 72.0% |
32年 | 3,200万円 | 2,891.1万円 | 90.3% | 71.1% |
33年 | 3,300万円 | 2,960.1万円 | 89.7% | 69.0% |
34年 | 3,400万円 | 3,026.9万円 | 89.0% | 66.8% |
… | … | … | … | … |
59年 | 5,900万円 | 1,781.8万円 | 30.2% | -901.8% |
60年 | 6,000万円 | 0 | 0.0% | -1781.8 |
経過年数25年で解約返戻率のピーク(94.8%)を迎える。
経過年数33年で年間の解約返戻金の増加額が年換算保険料相当額に対して70%以下になる((2,960.1万円-2,891.1万円)÷100万円=69.0%)。
25年と33年のいずれか遅い方は33年なので、72歳まで支払保険料の一部を資産計上する。