1.会計上の繰延資産と税法上の繰延資産
繰延資産とは、支出した費用でその支出の効果が1年以上に及ぶものをいいます。
繰延資産には、旧商法上の繰延資産(以下「会計上の繰延資産」といいます)と法人税法施行令14条6号資産(以下「税法上の繰延資産」といいます)があります。
繰延資産は、収益との対応関係を考慮して、原則として償却を通じてその効果の及ぶ期間ににわたって費用配分します。
ただし、会計上の繰延資産については、その支出した費用を支出事業年度で全額損金算入することができます(一時償却が認められています)。
法人税法上の繰延資産(広義) | 会計上の繰延資産・・・一時償却が認められる |
税法上の繰延資産(狭義)・・・均等償却を行う |
2.繰延資産の範囲
会計上の繰延資産と税法上の繰延資産の範囲は、以下のとおりです。
法人税法上の繰延資産 | 会計上の繰延資産 | — | 創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債等発行費 |
税法上の繰延資産 (長期前払費用等) |
施設の負担金 | 公共的施設(道路、堤防、護岸など) | |
共同的施設(会館、アーケードなど) | |||
資産賃借のための権利金等 | 建物賃借のための権利金 | ||
電子計算機等の賃借に伴う費用 | |||
役務の提供を受けるための権利金等 | ノウハウの頭金 | ||
広告宣伝用資産の贈与費用 | 看板、ネオン、どん帳など | ||
その他 | 同業者団体の加入金など |
(1) 会計上の繰延資産
① 創立費
法人の設立のために支出した費用(発起人に支払った報酬及び設立登記のために支出した登録免許税を含みます)で、法人の負担に帰すべき次のような費用をいいます。
なお、支出費用の負担が定款等で定められていなくとも、その費用は創立費に該当するものとされています(法基通8-1-1)。
イ.定款、株式申込証、設立趣意書、目録見積等の作成費
ロ.株式募集のための広告費
ハ.創立事務所の賃借料
ニ.設立事務に使用する使用人の給料、手当等
ホ.金融機関又は証券会社の取扱手数料
ヘ.創立総会に関する費用その他法人の設立のために要する費用
② 開業費
開業のための広告宣伝費及び接待費その他法人の設立後事業を開始するまでの間に開業準備のため特別に支出した費用をいいます。
③ 開発費
新たな技術若しくは新たな経営組織の採用、資源の開発又は市場の開拓のために特別に支出した費用をいいます。
④ 株式交付費
株券等の印刷費、資本金の増加の登記についての登録免許税その他自己の株式(出資を含みます)の交付のために支出した費用をいいます。
⑤ 社債等発行費
社債券等の印刷費その他債券(新株予約権を含みます)の発行のために支出する費用をいいます。
(2) 税法上の繰延資産
① 施設の負担金
イ.公共的施設の負担金
自己の便益を受ける公共的施設の設置又は改良のために支出する費用で、これに該当する例としては、次のような費用があります(法基通8-1-3)。
なお、国、地方公共団体、商店街等の行う街路の簡易舗装、街灯、がんぎ等の簡易な施設で主として一般公衆の便益に供されるもののために充てられる負担金は、これを繰延資産としないでその負担金を支出する日の属する事業年度の損金の額に算入することができます(以下、ロにおいて同じ)(法基通8-1-13)。
(イ) 自己の必要に基づいて行う道路、堤防、護岸、その他の施設又は工作物(以下「公共的施設」といいます)の設置等のために要する費用(自己の利用する公共的施設につきその設置等を国等が行う場合におけるその設置等に要する費用の一部の負担金を含みます)又は自己の有する道路その他の施設又は工作物を国等に提供した場合におけるその施設又は工作物の価額に相当する金額
(ロ) 国等の行う公共的施設の設置等により著しく利益を受ける場合におけるその設置等に要する費用の一部の負担金(土地所有者又は借地権を有する法人が土地の価格の上昇に基因して納付するものを除きます)
(ハ) 鉄道業を営む法人の行う鉄道の建設に当たり支出するその施設に連絡する地下道等の建設に要する費用の一部の負担金
ロ.共同的施設の負担金
自己が便益を受ける共同的施設の設置又は改良のために支出する費用で、これに該当する例としては、所属する協会、組合、商店街等の行う共同的施設の建設又は改良に要する費用の負担金があります(法基通8-1-4)。
なお、共同的施設の相当部分が貸室に供される等協会等の本来の用以外の用に供されているときは、その部分に対応する負担金は、協会等に対する寄附金となります(法基通8-1-4)。
② 資産賃借のための権利金等
資産の賃借又は使用のために支出する権利金、立退料その他の費用で、次のような費用はこれに該当します(法基通8-1-5)。
イ.建物を賃借するために支出する権利金、立退料その他の費用
ロ.電子計算機その他機器の賃借に伴って支出する引取運賃、関税、据付費その他の費用
③ 役務の提供を受けるための権利金等
役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用で、これに該当する例としては、ノウハウの設定契約に際して支出する一時金又は頭金の費用があります(法基通8-1-6)。
なお、ノウハウの設定契約において、頭金の全部又は一部を使用料に充当する旨の定めがある場合又は頭金の支払により一定期間は使用料を支払わない旨の定めがある場合には、その頭金のうち使用料に充当される部分の金額又はその支払わないこととなる使用料の額に相当する部分の金額は、前払費用として処理することができます(法基通8-1-6)。
例えば、3月決算法人が3月1日にノウハウの頭金600万円(償却期間5年=60か月)を支払った場合に、契約により同日から向こう1年間のノウハウ使用料240万円を支払わないこととなっているときは、次のように仕訳をします。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
長期前払費用 | 3,600,000 | 現金預金 | 6,000,000 |
使用料 | 2,400,000 | ||
長期前払費用償却 | 60,000 | 長期前払費用 | 60,000 |
※ 使用料相当部分は支出時より1年間の短期前払費用となります。また、繰延資産については、3,600,000×1か月/60か月=60,000円を償却します。
④ 広告宣伝用資産の贈与費用
製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用で、これに該当する例としては、その特約店等に対し自己の製品等の広告宣伝等のため、広告宣伝用の看板、ネオンサイン、どん帳、陳列棚、自動車のような資産(展示用モデルハウスのように見本としての性格を併せて有するものを含みます)を贈与した場合(その資産を取得することを条件として金銭を贈与した場合又はその贈与した資産の改良等に充てるために金銭等を贈与した場合を含みます)又は著しく低い対価で譲渡した場合におけるその資産の取得価額又はその資産の取得価額からその譲渡価額を控除した金額に相当する費用があります(法基通8-1-8)。
⑤ その他
①から④までのほか、自己が便益を受けるために支出する費用で、次のものが該当します。
イ.スキー場のゲレンデ整備費用(法基通8-1-9)
ロ.出版権の設定の対価(法基通8-1-10)
ハ.同業者団体等の加入金(法基通8-1-11)
ニ.職業運動選手等の契約金等(法基通8-1-12)
3.繰延資産の償却限度額
繰延資産は、収益との対応関係を考慮して、原則として償却を通じてその効果の及ぶ期間ににわたって費用配分します。
ただし、会計上の繰延資産については、その支出した費用を支出事業年度で全額損金算入することができます(一時償却が認められています)。
繰延資産の償却額として損金算入されるのは、償却費として損金経理した額のうち、下表の償却限度額に達するまでの金額です。
なお、繰延資産に該当する支出費用を償却費以外の科目をもって損金経理したときも、法人税法第32条第1項(繰延資産の償却費の損金算入)に規定する「償却費として損金経理をした金額」として取り扱われます(法基通8-3-2)。
A | 会計上の繰延資産 | 支出事業年度で全額損金算入可 |
B | 税法上の繰延資産 | 繰延資産×その事業年度の月数/償却年数×12 ※ 支出事業年度の場合には、次による償却を行う。 繰延資産×支出の日から事業年度終了の日までの月数/償却年数×12 |
C | 少額な繰延資産 | 上記Bのうち支出金額が20万円未満のものは支出事業年度で全額損金算入可 ※ 支出事業年度で全額損金算入しなかった場合は、以後上記Bによる。 |
4.税法上の繰延資産の償却期間
税法上の繰延資産の償却期間(償却年数)は、次のとおりです。
区分 | 種類 | 費用の範囲 | 償却期間 |
---|---|---|---|
施設の負担金 | (1) 公共的施設 |
① その施設等を負担者が専用する場合 |
その施設の耐用年数の7/10相当年数 |
② ①以外のもの |
その施設の耐用年数の4/10相当年数 | ||
(2) 共同的施設 | ① 負担者が専ら利用するもの | その施設の耐用年数の7/10相当年数(土地の場合は45年) | |
② 一般公衆も利用するもの | 5年(その施設等の耐用年数が5年未満のときは、その年数) | ||
資産賃借のための権利金等 | (3) 建物賃借のための権利金 |
① 賃借建物の新築の際に支払った権利金等で、その額が建築費の大部分を占め、建物の存続期間中賃借できるもの |
その建物の耐用年数の7/10相当年数 |
② 上記以外の権利金で、契約・慣習等によって明渡しの際、借家権として転売できるもの | その建物の賃借後の見積耐用年数の7/10相当年数 | ||
③ その他のもの | 5年(賃借期間が5年未満で、契約の更新に際し再び権利金等の支払を要することが明らかなときは、その賃借期間) | ||
(4) 電子計算機等の賃借に伴う費用 | 機器の耐用年数の7/10相当年数(その年数が契約による年数を超えるときは、その賃借期間) | ||
役務の提供を受けるための権利金等 | (5) ノウハウの頭金 | 5年(設定契約の有効期間が5年未満で、契約の更新に際し再び頭金等の支払を要することが明らかなときは、その有効期間) | |
広告宣伝用資産の贈与費用 | (6) 広告宣伝用資産の贈与費用 | その資産の耐用年数の7/10相当年数(5年を最高とする) | |
その他 | (7) スキー場のゲレンデ整備費用 | 12年 | |
(8) 出版権の設定の対価 | 設定契約に定める存続期間(設定契約に存続期間の定めがない場合には、3年) | ||
(9) 同業者団体等の加入金 | 5年 | ||
(10) 職業運動選手等の契約金等 | 契約期間(契約期間の定めがない場合には、3年) |
※ 償却年数に1年未満の端数が生じたときは、その端数を切り捨てます。また、(1)の①に該当する道路用地、又は道路として舗装の上国等へ提供した土地(舗装を含みます)の償却期間は、「その施設の耐用年数」を15年として計算します。
なお、繰延資産の償却額の計算に関する明細書(別表十六(六))の記載例については、本ブログ記事「繰延資産の経理処理と別表16(6)の記載例」をご参照ください。