新型コロナウイルス感染症拡大に伴う休業の協力要請等に応じた中小企業や個人事業主の中には、賃貸している店舗や事務所等の家賃の支払いに困っているところも少なくないと思います。これらの中小企業・個人事業主から、家賃の減額を求められた場合、家賃の減額に応じる賃貸物件のオーナーもいるようです。
その際に懸念されるのが、家賃の減額分が法人税法上の寄附金に該当しないかということです。
この点に関して、国税庁は、コロナウイルスの影響で賃貸物件のオーナーが家賃の減額を行った場合、取引先等の営業継続や雇用確保など復旧支援を目的としているなど一定の条件を満たせば、減額分は寄附金に該当しないとしています。
今回は、新型コロナウイルスの影響による家賃の減額の税務上の取扱いを確認します。
1.寄附金の何が問題なのか?
賃貸物件のオーナーである法人が、賃貸借契約を締結している取引先等に対して家賃(賃料)を減額した場合、その家賃を減額したことに合理的な理由がなければ、減額前の家賃と減額後の家賃との差額は、原則として相手方に対して寄附金を支出したものとして税務上取り扱われます。
例えば、5か月の間、月額10万円の家賃を6万円に減額した場合、会計上は次のように仕訳したとします。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金預金 | 30万円 | 受取家賃 | 50万円 |
雑損失 | 20万円 |
この雑損失20万円が全額損金算入されれば、会計上の利益も税務上の所得金額も30万円となるため、問題はありません。
しかし、家賃の減額に合理的な理由がなければ、雑損失20万円は税務上は寄附金として取り扱われます。
では、寄附金となった場合、何が問題なのでしょうか?
基本的に一般の寄附金は、以下の計算式が示すように、大部分が経費(損金)になりません。
損金算入限度額={所得金額×(2.5/100)+期末の資本金等の額×(当期の月数/12)×(2.5/1,000)}×1/4
例えば、資本金を1,000万円とすると、寄附金20万円のうち損金算入できるのは8,125円だけです。そうすると会計上の利益は30万円であるのに対し、税務上の益金は49.1875万円となってしまいます。オーナーの立場で考えると、実際の家賃収入は30万円なのに課税所得が49.1875万円となり、減額前とあまり変わらない法人税を支払うことになります。
2.寄附金に該当しないための条件
家賃の減額に合理的な理由がない場合は、上記のように減額分は寄附金となりますが、今般の新型コロナウイルスの影響により家賃を減額した場合は、以下の条件を満たせば、実質的には取引先等との取引条件の変更と考えられるとして、その減額分は寄附金には該当しないこととされました。
(1) 取引先等において、新型コロナウイルス感染症に関連して収入が減少し、事業継続が困難となったこと、又は困難となるおそれが明らかであること
(2) 不動産貸付業者が行う賃料の減額が、取引先等の復旧支援(営業継続や雇用確保など)を目的としたものであり、そのことが書面などにより確認できること
(3) 賃料の減額が、取引先等において被害が生じた後、相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間をいう)内に行われたものであること
また、取引先等に対して既に生じた賃料の減免(債権の免除等)を行う場合についても、同様に取り扱われます。
なお、賃料の減免を受けた賃借人(事業者)においては、減免相当額の受贈益と既に費用計上した支払賃料が同額となるため、結果として課税所得が生じることはありません。
ちなみに、賃貸物件のオーナーが法人ではなく個人事業主の場合は、寄附金という論点はなく、家賃収入が減少するだけです。