臨時的な役員賞与は損金算入が認められませんが、事前確定届出給与の制度を利用すれば、役員賞与であっても届け出たとおりの支給をすれば損金算入が可能です※1。
事前確定届出給与の制度を利用するには、一定の日までに納税地の所轄税務署長に対して、あらかじめ確定している支給時期、支給金額のほか必要事項を記載した届出をしなければなりません※2。
もし、所轄税務署長へ届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合には、事前確定届出給与に該当しないこととなり、損金不算入となります。
例えば、所轄税務署長に届け出た支給額よりも多く支給した場合には、超過部分だけではなく、届出支給額部分も含めた支給額全額が損金不算入となります。
また、届け出た支給額よりも少なく支給した場合にも、当該支給額全額が損金不算入となります。
少なく支給した場合は、届け出た支給額との間に未払部分が生じますが、たとえ、未払部分をその後一括して又は数回に分割して支給し、当該支給額との合計が届け出た支給額と一致したとしても、当該支給額全額が損金不算入となります。
事前確定届出給与は、支給時期及び支給金額が事前に確定していることが要件となっているため、超過額や未払額が発生するということは事前に確定していなかったということであり、したがって事前確定届出給与には該当せず、損金不算入となります。
これらのことを明確に示した裁判例が、以下の東京地裁令和6年2月21日判決(令和4年(行ウ)第566号)です。
原告の定時株主総会において、代表取締役2名に対してそれぞれ2,800万円の賞与を支給することが決議され、その決議内容に関する届出を原告は税務署に対して行っていましたが、実際に支給されたのがそれぞれ2,500万円であったため、税務署は事前確定届出給与に該当しないとして損金算入を認めず、東京地裁も税務署と同様の判断を下しています。
東京地裁はこの判決において、「事前に支給時期及び支給額が株主総会等において確定的に定められ、事前確定届出給与に関する届出がされたにもかかわらず、届けられた金額と異なる金額の役員賞与が支払われた場合に無制限に損金への算入を認めることとすれば、例えば、支給額を高額に定めて事前確定届出給与に関する届出を行うことによりあらかじめ枠取りをしておき、その後、上記のとおり届出をした金額より減額した額を支給するなどして損金の額をほしいままに操作し、法人税の課税を回避するなど、事前確定届出給与制度を設けた趣旨を没却し、課税の公平を害することになりかねない」として、支給額の合計額5,000万円を損金の額に算入することはできないと判示しています。
また、原告は、実際の支給額と届け出た支給額との差額(各300万円)については、役員給与の一部が未払の状態にすぎないなどと主張しましたが、東京地裁は、「未払賞与」を計上していない原告の会計処理に照らしてもにわかに認め難く、仮に一部が未払の状態にすぎないとしても、法34条1項2号の要件を満たすとはいえないなどとして、原告の主張を斥けています。
※1 届け出たとおりの支給をしなかった場合については、「事前確定届出給与(複数回支給)を届出通りに支給しなかった場合」、「事前確定届出給与(複数人支給)を特定の役員だけ届出通りに支給しなかった場合」、「事前確定届出給与を支給しなかった場合のリスクを回避するための手続き」をご参照ください。
※2 届出書の具体的な書き方については、「『事前確定届出給与に関する届出書』等の書き方と記載例」をご参照ください。