外貨建取引を円換算するときの為替レートとは?

 海外企業と外貨建てで取引を行う場合、外貨建ての収益や費用を円換算する必要があります。
 円換算については、国税庁ホームページ(No.6325外貨建取引の取扱い)でその概要が説明されており、最初の一文には次のように記載されています。

 外貨建ての取引の売上金額や仕入金額の円換算は、為替予約がある場合を除き、原則として売上げや仕入れとして計上する日の電信売買相場の仲値によることとされています。

 この最初の一文だけでも、為替予約、電信売買相場、仲値などのように国内取引では出てこない用語が散見されます。 
 外貨建取引が国内取引に比べて難しく感じることがあるとすれば、このような国内取引とは異なる「用語」の存在が一因だと思われます。

 以下では、外貨建取引に係る用語の基礎知識を整理した上で、外貨建取引を円換算する際に適用する為替レートの確認をします。

1.為替レートの分類

 外貨建取引を円換算するにあたっては、各種為替レートに関する理解が必要になります。
 ここでは、為替レートについての基礎的な知識を整理します。

(1) 直物レートと先物レート

 まず、為替レートを大きく分類すると、直物レートと先物レートに分かれます。

 直物レート(スポット・レート)とは、取引日から2営業日後に通貨の受け渡しが行われる為替レートをいい、一般的に為替レートといった場合は直物レートを指します。

 一方、先物レート(予約レートまたはフォワード・レート)とは、2営業日後よりも後(例えば3か月後や6か月後)に通貨の受け渡しが行われる為替レートをいい、為替リスクのヘッジの局面でよく登場するレートです。

 為替レートは直物レートと先物レートに大きく分類されますが、以下では、直物レートについてさらに3つに分類します。

(2) TTS・TTB・TTMとは?

 外貨建取引の円換算においては、同じ直物レートであっても、TTS・TTB・TTMという用語が使い分けられています。

 TTSとは、Telegraphic Transfer Sellingの略であり、電信売相場を意味します。「売」というのは銀行側の視点であり、銀行が顧客に外貨を売る際に用いるレートです。
 企業側の視点からは、外貨を買う(円を外貨に交換する)際に用いるレートであり、例えば、海外への送金や外貨預金の入金などに適用されます。

 TTBとは、Telegraphic Transfer Buyingの略であり、電信買相場を意味します。「買」というのは銀行側の視点であり、銀行が顧客から外貨を買う際に用いるレートです。
 企業側の視点からは、外貨を売る(外貨を円に交換する)際に用いるレートであり、例えば、海外からの入金や外貨預金の出金などに適用されます。

 TTMとは、Telegraphic Transfer Middleの略であり、TTSとTTBの仲値を意味します。
 会計上や税務上で一般的に用いられる為替レートはTTMです。

為替レート 企業側の視点
TTS 円を外貨に交換する(円→外貨)
TTB 外貨を円に交換する(外貨→円)
TTM TTSとTTBの仲値((TTS+TTB)÷2)

2.外貨建取引の換算レート

 法人税法上、外貨建取引を行った場合の円換算は、その外貨建取引を行ったとき(取引日)の為替レートにより換算し、為替レートはTTMを用いることとされています(法人税基本通達13の2-1-2)。

 ただし、継続適用を条件として、売上その他の収益または資産についてはTTB仕入その他の費用または負債についてはTTSを用いることもできます。

換算方法 換算レート
原則 TTM
例外 収益または資産:TTB
費用または負債:TTS

 また、同じく継続適用を条件として、取引日の為替レート以外に以下の為替レートによる換算も可能です。

(1) 取引日の属する月若しくは週の前月若しくは前週の末日又は当月若しくは当週の初日のTTB若しくはTTS又はこれらの日におけるTTM
(2) 取引日の属する月の前月又は前週の平均相場のように1月以内の一定期間におけるTTM、TTB又はTTSの平均値

換算方法 換算レート
原則 取引日の為替レート
例外 前月や前週の末日または当月や当週の初日の為替レート(一定時点の為替レート)
前月や前週の平均相場(一定期間の為替レートの平均値)

 上記のように、一定時点の為替レートや一定期間の為替レートの平均値による換算も認められているため、外貨建取引の多い会社では、実務的には例外的な方法により換算することも考えられます。

 ただし、1か月を超える期間(例えば四半期や半年など)、為替レートを固定することはできませんので注意しなければなりません。

3.会計処理(為替差損益の認識)

 以下の簡単な例によって、外貨建取引の会計処理を確認します。

(1) 取引発生時
 海外企業へ商品1,000ドルを売上げ、代金は掛けとした(当日の為替レート(TTM)は100円/ドル)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
売掛金 100,000 売上 100,000

(2) 代金決済時
 上記取引における売掛金代金が普通預金に入金された(当日の為替レート(TTM)は120円/ドル)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 120,000 売掛金 100,000
    為替差益 20,000

 外貨建取引の売上金額や仕入金額の円換算は、原則として売上げや仕入れとして計上する日のTTMによることとされています。
 そのため、これらの売上金額が入金された場合や、仕入金額を支払った場合には、売上げや仕入れに計上した日と実際に円貨で決済した日との為替レートの差により、いわゆる為替差損益が発生します。

 なお、外貨建取引に伴う消費税の取扱いについては、上記(1)の商品を課税商品とすると貸方・売上は「輸出免税(0%課税)」となり、上記(2)の貸方・為替差益は「不課税(対象外)」となります。