所得控除における「生計を一にする」の判定基準

1.同一生計を要件とする所得控除

 所得税法では、所得税額を計算するときに各納税者の個人的事情(担税力)を加味するために、所得控除の制度が設けられています。
 所得控除には物的控除と人的控除がありますが、それぞれの所得控除の要件の一つとしてよく出てくるのが「生計を一にする」という要件です。
 所得控除を受けるにあたって、この「生計を一にする(同一生計)」という要件を必要とするもの(○)と不要なもの(×)をまとめると、下表のようになります。

所得控除 「同一生計」の要否
物的控除 雑損控除 ○(納税者又は納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族)
医療費控除 ○(自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族)
社会保険料控除 ○(自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族)
小規模企業共済等掛金控除 ×
生命保険料控除 ×
地震保険料控除 ○(自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族)
寄附金控除 ×
人的控除 障害者控除 ○(納税者自身、同一生計配偶者又は扶養親族)
寡婦控除 ○(夫と離婚した後婚姻をしておらず、扶養親族がいる人)※死別の場合は扶養親族要件なし
ひとり親控除 ○(生計を一にする子がいる)
勤労学生控除 ×
配偶者控除 ○(納税者と生計を一にしている)
配偶者特別控除 ○(納税者と生計を一にしている)
扶養控除 ○(納税者と生計を一にしている)
基礎控除 ×

 上表から、多くの所得控除で「生計を一にする」という要件が必要であることがわかります。では、「生計を一にする」とは、どういうことなのでしょうか?

2.「生計を一にする」とは?

 「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していること(同居していること)を要件とするものではありません。次のような場合も、「生計を一にする」ものとして取り扱われます(所得税基本通達2-47)。

(1) 勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとされます。
① 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
② これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合

(2) 親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとされます。

 以上から、「生計を一にする」とは、必ずしも同居を要件とするものではなく、別居していても生活費等を送金するなどして「同じ財布で生活している」場合は、生計を一にするものとされます。
 では、どの程度の送金をすれば「同じ財布で生活している」ことになるのでしょうか?以下では、別居している親に送金する場合についてみていきます。

3.「同じ財布で生活している」とは?

(1) 親の生活費等の大部分又は一部を送金している場合

 生活費等の大部分を送金していれば、「生計を一にする」と考えられますが、生活費等の大部分を送金しなければならないということではなく、それが生活費の一部であるならば「生計を一にする」と解されます。
 ただし、この場合送金しているのが「生活費等」なのか、単なる「お小遣い」なのか事実認定の問題がありますが、親の所得と一般的にかかる生活費等から、送金しているのが生活費の一部なのか判定する必要があります。

(2) 兄弟等と共同で親の生活費等を送金している場合

 兄弟等と共同で継続的に送金していても、それが生活費等に消費されていることが明らかであれば、お互いに「生計を一にする」と解されます。
 ただし、扶養控除等を兄弟間で重複して適用することはできません。

(3) 親の生活費を毎月継続して送金している場合

 上記2.(1)②でみたように、「生計を一にする」のは、常に生活費等の送金が行われている場合とされています。
 生活費等とは、本来必要な都度送金されるものと解されますので、月々の生活費等の送金を毎月継続的に行っている場合には、常に送金が行われているといえます。

(4) 親の生活費をボーナス時や帰省時にまとめて送金している場合

 上記(3)に対して、半年に一度のボーナス時や年に一度の帰省時にまとめて送金するのは本来生活費とは言い難く、常に生活費等を送金しているとはいえませんので、特段の事情がない限り「生計を一にする」とはいえないと思われます。