2018(平成30)年に行われた約40年ぶりの民法(相続関係)改正により、無償で被相続人の療養看護等を行った親族(相続人等を除く)は、相続人に対して金銭(特別寄与料)の請求をすることができるようになりました。
この特別寄与料に関する規定は、2019(令和1)年7月1日以後に開始した相続から適用されます。
今回は、新設された特別寄与料制度について確認します。
1.寄与分制度と特別縁故者制度
従前から、被相続人の療養看護等に貢献した者等に対する金銭的な補償の制度として、寄与分制度と特別縁故者制度がありました。
しかし、寄与分制度については、その権利(寄与分権)を行使できる者は相続人に限られているため、例えば、被相続人を献身的に介護した長男の妻は、相続人ではないため適用の範囲外であり、相続財産の分与を受けることができません。一方、相続人である長女や次男などは、被相続人の介護を全く行っていなかったとしても相続財産を取得することができるため、公平ではないという指摘がされていました。
また、特別縁故者制度については、そもそも被相続人に相続人が不存在であることを要件としているため、適用されること自体が多くないと思われます。
このように、寄与分制度と特別縁故者制度だけでは、被相続人の子の配偶者が被相続人の介護の世話を献身的に行ったとしても、その貢献に報いることはできませんでした。
2.特別寄与料制度
そこで、改正民法では、相続人以外の親族※1が、被相続人に対して無償※2で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持又は増加※3について特別の寄与をした場合、相続人に対して金銭(特別寄与料)の請求ができるようになりました。
※1 親族とは、配偶者、6親等内の血族、3親等内の姻族をいいます。ただし、相続放棄者、相続欠格者、被廃除者を除きます。相続人が特別の寄与を行っていた場合は、従前通り、寄与分の請求を行うことになります。
※2 労務の提供は、無償であることが必要です。
※3 例えば、長男の妻が無償で療養看護を行うことによって、本来支出するはずであった看護費用などの支出を免れたような場合は「財産の維持」といえます。
特別寄与料制度により、寄与分制度の適用の範囲外であった相続人以外の親族(例えば長男の妻)にも、金銭的な補償の機会が与えられました。
ただし、金銭の請求ができるようになっても、相続人ではないので遺産分割協議に加わることはできません。
また、介護で貢献したとしても、特別寄与料を請求する際に相続人からの納得を得るためには、客観的事実が明らかになる資料の提示が必要であると思われます。例えば、領収書などの出費の記録を残す、介護日誌などの介護に関する記録を残す、他の兄弟姉妹に手紙やメールで介護の状況を知らせておく、などです。
3.相続税法上の取扱い
税務的な視点でみれば、特別寄与料を受け取った親族(以下「特別寄与者」といいます)は、その受け取った特別寄与料を遺贈により取得したものとして、相続税を課税されます。
相続税法18条では、相続又は遺贈により財産を取得した者が、被相続人の1親等の血族及び配偶者以外の者である場合、相続税額を2割加算することとしています。
したがって、特別寄与者が支払う相続税は、2割加算の対象になります。
また、相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内とされていますが、当該申告期限内に特別寄与料が確定していないことが考えられます。そのような場合を想定して、特別寄与者の相続税申告期限は、特別寄与料の支払額が確定したことを知った日の翌日から10か月以内とされています。
一方、それぞれの相続分に応じて特別寄与料を負担した相続人は、特別寄与料を控除した相続財産について、相続税を課税されます。この場合にも相続税申告時に控除すべき特別寄与料が確定していないことが想定できるため、各相続人は負担しすぎた相続税の還付を受けるため、更正の請求を行うことができます。