損害賠償金は、原則として消費税の課税対象にはなりません。例えば、交通事故を起こして相手の自動車が破損した場合に、損害賠償金(示談金)として修理費相当額10万円を支払っても、消費税の計算上は仕入税額控除の対象になりません。
では、相手から交付された損害賠償金の請求書に、消費税10%を含む11万円が記載されていた場合は仕入税額控除の対象となるのでしょうか?
今回は、このようなケースについて確認します。
1.損害賠償金と消費税の基本的関係
消費税は、国内において事業者が行った資産の譲渡等を課税対象としています。資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいうことから、次の4要件を満たすものが国内取引の課税の対象となります(消費税法第4条1項)。
(1) 国内取引であること
(2) 事業者が事業として行うものであること
(3) 対価を得て行われるものであること
(4) 資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供であること
そして、心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴って受ける損害賠償金は、資産の譲渡等の対価に該当しないものとして、原則として不課税とされています。ただし、次のような、その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは、その名目にかかわらず消費税の課税対象となります(消費税法基本通達5-2-5)。
(イ) 損害を受けた資産等が加害者等に引き渡される場合の損害賠償金で、そのまま又は軽微な修理を加えることにより使用できる場合
(ロ) 特許権や商標権などの無体財産権の侵害につき加害者から収受する損害賠償金
(ハ) 不動産等の明渡し遅滞により加害者から収受する損害賠償金
今回採り上げるケースは、上記(イ)~(ハ)のいずれにも該当しません。
2.損害賠償金に消費税を含めることの可否
では、今回の本題に入ります。今回採り上げるのは、次のようなケースです。
交通事故の損害賠償金として、被害者から自動車の修理代として請求された金額に消費税が含まれていた。修理代は被害者が修理業者に直接支払っており、修理業者の請求書の宛先も被害者となっている。この場合、加害者側でその損害賠償金を仕入税額控除の対象としていいのかどうか?
ここで疑問が生じるのは、損害賠償金に消費税を含めていいのかどうか、ということです。
この点については、当事者である被害者と加害者の合意内容によるべきものと考えます。例えば、被害者が課税事業者であり、仕入税額控除ができることをもって消費税抜きの金額にすることも、当事者間の合意があれば可能です。損害額の計算は、当事者間において損害額の算定をどうするかという合意内容によります。
したがって、損害賠償金に消費税を含めて加害者に請求することについては、合意があれば特に問題はないといえます。
3.仕入税額控除できるか?
損害賠償金を支払った加害者側で仕入税額控除ができるかどうかを考えるにあたって、損害賠償金に消費税が含まれているか否かということは関係ありません。
今回のケースでは、修理代を被害者が修理業者に直接支払っており、修理業者の請求書の宛先も被害者となっています。この場合、加害者が被害者に支払う損害賠償金は、損害の発生を起因としてその損害額の補填をする性格のものですから、対価性が無いものとして不課税になります。したがって、損害賠償金に含まれる消費税についても、仕入税額控除の対象にはなりません。
もし、今回のケースで、修理代を加害者が修理業者に直接支払っていて、修理業者の請求書の宛先も加害者となっている場合は、損害賠償金に含まれる消費税を加害者側で仕入税額控除ができます。修理業者に対価の支払いをし、自動車の修理という役務の提供を受けているからです(上記1の冒頭で述べた課税対象となる4要件を満たすからです)。