輸出取引の多い事業者や多額の設備投資を行った事業者などは、消費税の申告によって消費税の還付を受けることができます。
還付を受ける際は、課税売上(輸出免税売上や国内における課税売上)がある場合が一般的だと思われますが、課税売上がない場合でも消費税の還付を受けることができる場合があります。
今回は、この点について確認します。
1.仕入税額控除と課税売上割合
会計の世界では、商品を販売したりサービスを提供したりすることを「売上」と呼びますが、消費税の世界では、商品の販売やサービスの提供だけではなく、建物や車両などの事業用資産を売却することも「売上」といいます。
また、会計の世界では、商品を購入することを「仕入」と呼びますが、消費税の世界では、商品の購入以外に、事業用資産を購入することも「仕入」といいます。
消費税の納税額計算の仕組みを考えるとき、消費税では「売上」や「仕入」の概念が会計よりも広くなっていることに留意する必要があります。
このことを踏まえて消費税の納税額計算の仕組みを簡潔に説明すると、消費税の納税額は、売上に係る消費税額から仕入に係る消費税額を控除して求めます。これを仕入税額控除といいます。
通常は、売上に係る消費税額が仕入に係る消費税額よりも多いため消費税を納税することになりますが、輸出取引の多い事業者や多額の設備投資を行った事業者などのように、売上に係る消費税額より仕入に係る消費税額の方が多い場合は、消費税が還付されます。
この仕入税額控除ですが、「課税売上割合」によって全額控除、個別対応方式、一括比例配分方式という3つの方法に分かれます。
全額控除は仕入れに係る消費税額の全額を控除できますが、個別対応方式と一括比例配分方式では、仕入に係る消費税額を課税売上割合によって按分する必要があります。
課税売上割合は総売上高に占める課税売上高の割合をいい、次の算式により算出します。
課税売上割合=課税売上高/総売上高=課税売上高/(課税売上高+非課税売上高)
この課税売上割合が95%以上かつ課税売上高が5億円以下の場合は、仕入税額控除の方法は全額控除となります。
課税売上割合が95%未満または課税売上高が5億円超の場合は、個別対応方式か一括比例配分方式のどちらかになります。
2.課税売上がない場合の仕入税額控除
課税売上がない場合の課税売上割合は、上記1の計算式の分子が0円となるため、0%(95%未満)として取り扱われます。
したがって、仕入税額控除の方法は、個別対応方式か一括比例配分方式のどちらかになります。
個別対応方式と一括比例配分方式は、仕入に係る消費税額を課税売上割合によって「控除できる税額」と「控除できない税額」に按分する必要があります。
個別対応方式では、仕入に係る消費税額を次の3つに区分します。
A:課税売上のみに対応(課税売上対応分)
B:非課税売上のみに対応(非課税売上対応分)
C:AとBに共通して対応(共通対応分)
そのうえで、仕入に係る消費税額のうち控除できる税額(控除対象仕入税額といいます)を次のように計算します。
控除対象仕入税額=A+C×課税売上割合
一方、一括比例配分方式では、仕入に係る消費税額を区分する必要はなく、次のように控除対象仕入税額を計算します(一括比例配分方式は、個別対応方式における区分の煩雑さを考慮して区分不要とし、すべての仕入に係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算する簡便的な方法です)。
控除対象仕入税額=仕入に係る消費税額×課税売上割合
上記の個別対応方式と一括比例配分方式の控除対象仕入税額の計算式を見比べると、課税売上がない(課税売上割合が0%)場合でも、個別対応方式ではA(課税売上対応分)の税額が控除できることがわかります。
それに対して、一括比例配分方式では控除対象仕入税額は0となります。
つまり、課税売上がない(課税売上割合が0%)場合でも、個別対応方式を適用すれば消費税の還付を受けることができます。
3.課税売上がないのに課税売上対応?
上記2のように、課税売上がない(課税売上割合が0%)場合でも、個別対応方式を適用すれば、仕入に係る消費税額のうち課税売上対応分については還付を受けることができます。
しかし、ここで疑問が生じます。課税売上がないのに、仕入に係る消費税額を「課税売上対応分」として区分することに問題はないのか?ということです。
これに関しては、消費税法基本通達11-2-10(課税資産の譲渡等にのみ要するものの意義)において、次のように規定されています(下線は筆者による)。
11-2-10 法30条第2項第1号《個別対応方式による仕入税額控除》に規定する課税資産の譲渡等にのみ要するもの(以下「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」という。)とは、課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ等をいい、例えば、次に掲げるものの課税仕入れ等がこれに該当する。
なお、当該課税仕入れ等を行った課税期間において当該課税仕入れ等に対応する課税資産の譲渡等があったかどうかは問わないことに留意する。(令5課消2-9により改正)
(1) そのまま他に譲渡される課税資産
(2) 課税資産の製造用にのみ消費し、又は使用される原材料、容器、包紙、機械及び装置、工具、器具、備品等
(3) 課税資産に係る倉庫料、運送費、広告宣伝費、支払手数料又は支払加工賃等
上記通達の下線部にあるように、課税売上がない場合でも、仕入に係る消費税額を「課税売上対応分」として区分することに問題はありません。