中古資産を法定耐用年数で償却した後に見積法や簡便法への変更はできない

1.中古資産でも原則は法定耐用年数で償却

 減価償却資産の耐用年数については、会計上はその資産の実情に応じた耐用年数を企業等が独自に決定することを理想としていますが、税法上は公平性等の観点よりそのような自主性を認めていません。
 他方、中古資産については、個々の資産の経過年数が異なること、残存耐用年数の把握がしやすい場合があること等により、残存耐用年数を見積ることが認められています(見積法)。
 また、資料の不足等により、企業等が適正にその中古資産の残存耐用年数を見積もることができない場合(見積法の適用が困難な場合)には、簡便法の取扱いが設けられています。
 これら中古資産の耐用年数については、以下の減価償却資産の耐用年数等に関する省令(以下「省令」といいます)第3条第1項に規定されています(太字は筆者による)。

第3条 個人において使用され、又は法人(人格のない社団等を含む。以下第5条までにおいて同じ。)において事業の用に供された所得税法施行令第6条各号(減価償却資産の範囲)又は法人税法施行令第13条各号(減価償却資産の範囲)に掲げる資産(中略)の取得(中略)をしてこれを個人の業務又は法人の事業の用に供した場合における当該資産の耐用年数は、前2条の規定にかかわらず、次に掲げる年数によることができる
 ただし、当該資産を個人の業務又は法人の事業の用に供するために当該資産について支出した所得税法施行令第181条(資本的支出)又は法人税法施行令第132条(資本的支出)に規定する金額が当該資産の取得価額(中略)の100分の50に相当する金額を超える場合には、第2号に掲げる年数についてはこの限りでない。
一 当該資産をその用に供した時以後の使用可能期間(中略)の年数
二 次に掲げる資産(別表第1、別表第2、別表第5又は別表第6に掲げる減価償却資産であつて、前号の年数を見積もることが困難なものに限る。)の区分に応じそれぞれ次に定める年数(その年数が2年に満たないときは、これを2年とする。)
イ 法定耐用年数(中略)の全部を経過した資産 当該資産の法定耐用年数の100分の20に相当する年数
ロ 法定耐用年数の一部を経過した資産 当該資産の法定耐用年数から経過年数を控除した年数に、経過年数の100分の20に相当する年数を加算した年数

 本規定はいわゆる「できる規定」であって、中古資産を取得したときでも、原則は法定耐用年数で減価償却します。
 また、見積法(省令第3条第1項第1号)が適用困難な場合に簡便法 (省令第3条第1項第2号) を採用することになりますが、実務的には簡便法を用いることが多いと思われます。
 簡便法の計算式は、次のとおりです。

1.法定耐用年数の全部が経過しているもの
 法定耐用年数×0.2

2.法定耐用年数の一部が経過しているもの
 (法定耐用年数―経過年数)+経過年数×0.2

3.中古資産に支出した改良費>再調達原価×0.5のとき
 法定耐用年数

(注)計算した年数に1年未満の端数があるときは切捨て、2年に満たない場合は2年とします。

2.見積法・簡便法による耐用年数の算定は事業供用年度のみ可

 中古資産の残存耐用年数を見積法や簡便法で算定する場合の留意点は、以下の耐用年数の適用等に関する取扱通達1-5-1に記載されていいます(太字は筆者による)。

1-5-1 中古資産についての省令第3条第1項第1号に規定する方法(以下1-7-2までにおいて「見積法」という。)又は同項第2号に規定する方法(以下1-5-7までにおいて「簡便法」という。)による耐用年数の算定は、その事業の用に供した事業年度においてすることができるのであるから当該事業年度においてその算定をしなかったときは、その後の事業年度(その事業年度が連結事業年度に該当する場合には、当該連結事業年度)においてはその算定をすることができないことに留意する。
(注) 法人が、法第72条第1項に規定する期間(以下「中間事業年度」という。)において取得した中古の減価償却資産につき法定耐用年数を適用した場合であっても、当該中間事業年度を含む事業年度においては当該資産につき見積法又は簡便法により算定した耐用年数を適用することができることに留意する。


 本通達は、中古資産についての見積法・簡便法による耐用年数の算定は、当該中古資産を取得してこれを事業の用に供した最初の事業年度に限りすることができ、当該事業年度において算定しなかったときは、その後の事業年度において算定することはできない旨を定めています。
 見積法・簡便法はあくまでも法定耐用年数の特則であること、そして、いつでも変更が可能であるとすると利益調整等のために納税者によって恣意的に変更される可能性があることから、特則である見積法・簡便法の適用を望む企業等は、中古資産を事業の用に供した最初の事業年度において、自らその意思を表示してその適用を受けることを要し、その意思を表示しなかった場合には原則どおり法定耐用年数が適用され、これを事後的に変更することはできない、ということです。

2以上の構造からなる建物の一部を区分所有した場合の耐用年数の判定

 2以上の構造からなる建物(35階建ての高層ビルのうち、1階から8階までが鉄骨鉄筋コンクリート造で、9階から35階までが金属造のもの)の1階から15階までをA法人が取得し、16階から35階までをB法人が取得することになりました。
 この場合、A法人が取得する部分の耐用年数は、次のうちどちらで判定するのでしょうか?

(1) 1階から8階までを鉄骨鉄筋コンクリート造で判定し、9階から15階までを金属造で判定する
(2) 1階から15階まですべて金属造で判定する

1.耐通1-2-1(建物の構造の判定)

 結論を先に述べると、正解は(2)になります。直感的には、(1)の方が合理的な判定方法のように見えますが、耐用年数の適用等に関する取扱通達1-2-1(建物の構造の判定)では、次のように規定されています。

1-2-1 建物を構造により区分する場合において、どの構造に属するかは、その主要柱、耐力壁又ははり等その建物の主要部分により判定する。

 本件建物のように8階までが鉄骨鉄筋コンクリート造、9階から35階までが金属造の高層ビルについては、金属造部分が大部分を占めることから、建物全体が金属造と認められます。 
 一般に超高層ビルのように下部の一部が鉄骨鉄筋コンクリート造、その他の部分が金属造であって、全体として金属造に該当すると認められる場合において、その一部の所有権を取得したときは、当該部分が鉄骨鉄筋コンクリート造部分であっても、耐用年数を適用する場合の構造の判定に当たっては、耐用年数の適用等に関する取扱通達1-2-2(2以上の構造からなる建物)の適用がある場合を除き、その建物全体の構造により判定することが相当と考えられます。
 したがって、本件建物については、 耐用年数の適用等に関する取扱通達1-2-2の適用はありませんので、金属造の建物としてその用途に応じて耐用年数を適用します。

2.耐通1-2-2(2以上の構造からなる建物)

 上記のとおり、耐用年数を適用する場合の構造の判定に当たっては、耐用年数の適用等に関する取扱通達1-2-2(2以上の構造からなる建物)の適用がある場合を除き、その建物全体の構造により判定することが相当と考えられますが、 耐用年数の適用等に関する取扱通達1-2-2の内容は、次のとおりです。

1-2-2 一の建物が別表第一の「建物」に掲げる2以上の構造により構成されている場合において、構造別に区分することができ、かつ、それぞれが社会通念上別の建物とみられるもの(例えば、鉄筋コンクリート造り3階建の建物の上に更に木造建物を建築して4階建としたようなもの)であるときは、その建物については、それぞれの構造の異なるごとに区分して、その構造について定められた耐用年数を適用する。

特別償却と割増償却の違い

 減価償却は、大きく分けると「普通償却」と「特別償却」があります。
 法人税法で定める定額法や定率法で計算する通常の減価償却を「普通償却」といいます。
 この償却とは別に、租税政策的な目的などから通常の計算をした償却費に加えて余分に減価償却することが認められています。これを「特別償却」といいます。
 さらに、この特別償却は「初年度特別償却」と「割増償却」に分かれます。実務上、特別償却というときは初年度特別償却を指す場合が多いことから、ここでは初年度特別償却のことを特別償却と呼びます。
 この特別償却と割増償却ですが、よく似た制度なので両者を混同してしまうケースも見受けられます。
 以下では、両者の相違点について整理してみます。

1.メリット

 特別償却も割増償却も、早期に費用化することによる固定資産の陳腐化リスクに備えるメリットがあります。

2.計算方法

 特別償却は、特別償却限度額(取得価額×特別償却率)が、普通償却に上乗せされます。割増償却は、割増償却限度額(普通償却限度額×割増償却率)が、普通償却に上乗せされます。
  特別償却限度額=取得価額×特別償却率
  割増償却限度額=普通償却限度額×割増償却率
 つまり、特別償却は取得価額を基礎として計算するのに対し、割増償却は普通償却を基礎として計算します。

3.計算例

 次の簡単な数値を使って両者の計算例を示します。
  取得価額100万円
  耐用年数4年(償却率0.25)
  特別償却率20%
  割増償却率20%(適用期間2年)

(1) 特別償却を行った場合

 ①1年目
  普通償却限度額=100万円×0.25=25万円
  特別償却限度額=100万円×20%=20万円
  合計=25万円+20万円=45万円
 ②2年目
  普通償却限度額=100万円×0.25=25万円
  特別償却限度額=0(適用があるのは初年度だけです
  合計=25万円+0=25万円
 ③3年目
  普通償却限度額=100万円×0.25=25万円
 ④4年目
  普通償却限度額=100万円-(45万円+25万円+25万円)=5万円

(2) 割増償却を行った場合

 ①1年目
  普通償却限度額=100万円×0.25=25万円
  割増償却限度額=25万円×20%=5万円
  合計=25万円+5万円=30万円
 ②2年目
  普通償却限度額=100万円×0.25=25万円
  割増償却限度額=25万円×20%=5万円
  合計=25万円+5万円=30万円
 ③3年目
  普通償却限度額=100万円×0.25=25万円
  割増償却限度額=0(計算例では適用期間を2年としています
  合計=25万円+0=25万円
 ④4年目
  普通償却限度額=100万円-(30万円+30万円+25万円)=15万円

4.適用期間

 特別償却は初年度だけですが、割増償却は一定期間の適用があります。

5.減価償却費の総額

 特別償却も割増償却も、減価償却費の総額は普通償却の場合と同じです。