不動産販売業の売上計上時期

 不動産の売買では、売買契約を締結してから物件の引渡しまでに通常1~3か月かかります。
 同一事業年度内に契約と引渡しが行われる場合、例えば、不動産販売業を営む法人(3月決算)が、1月に買主との間で売買契約を締結し3月に引渡しを行う場合は、その売上計上時期について特に疑問は生じません。
 しかし、契約と引渡しが事業年度をまたぐ場合、例えば、1月に売買契約を締結し引渡しが4月になる場合は、契約した当期に売上計上するのか引き渡した翌期に売上計上するのか、若干の疑問が生じます。仮に、契約した当期に売上を計上すべきとした場合に翌期に売上計上しているときは、税務調査の際に売上計上遅延を指摘される懸念も残ります。
 今回は、不動産販売業を営む法人の売上計上時期について確認します。

1.不動産販売業における不動産は棚卸資産

 不動産販売業以外の業種、例えば製造業などを営む法人は、不動産を固定資産として保有しますが、不動産販売業を営む法人は、不動産を販売することを目的として保有します。
 販売目的で保有する不動産は棚卸資産に該当し、貸借対照表では販売用不動産などの科目で表示されます。
 販売用不動産には、①開発中の販売用不動産と②開発を行わない販売用不動産及び開発が完了した販売用不動産があります。
 ①は、例えば、土地を仕入れて造成や建物の建築を行っている不動産をいい、②は、土地や土地付き建物を仕入れてそのまま転売する不動産、造成工事や建築工事が完了し完成在庫となっている不動産をいいます。
 法人税法上の棚卸資産は、「商品、製品、半製品、仕掛品、原材料その他の資産で棚卸しをすべきものとして政令で定めるもの(有価証券及び第61条第1項(短期売買商品等の譲渡損益及び時価評価損益)に規定する短期売買商品等を除く。)」をいいます(法人税法第2条20号)。政令で定めるものとは、「商品又は製品(副産物及び作業くずを含む)、半製品、仕掛品(半成工事を含む)、主要原材料、補助原材料、消耗品で貯蔵中のもの、これらの資産に準ずるもの」をいいます(法人税法施行令第10条)。
 販売用不動産は、①の場合は半製品、仕掛品に該当し、②の場合は商品、製品に該当します。

2.不動産販売の収益認識

(1) 会計上の取扱い

 不動産販売の売上計上時期については、企業会計原則における実現主義によって収益を認識することとなります。実現主義とは、「財貨又は役務の提供」とそれに対する「現金又は現金同等物の受領」という2要件を満たした時点で収益を認識(売上を計上)する基準です。
 通常の不動産販売であれば、①売買契約の締結・手付金の受領、②物件引渡し・残金決済、③②とほぼ同時に所有権移転登記が行われますが、②の物件引渡しと残金決済の時点で 実現主義の2要件を満たすと考えられます。
 したがって、不動産販売業においては、買戻し条件や譲渡人からの融資といった特殊な状況がなければ、物件の引渡しが行われた時点で売上を計上します。

(2) 法人税法上の取扱い

 法人税法でも、「棚卸資産の販売による収益の額は、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入する」こととされています(法人税基本通達2-1-1)。
 棚卸資産の引渡しの日がいつであるかについては、「例えば出荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日、検針等により販売数量を確認した日等当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるものとする」とされています(法人税基本通達2-1-2)。
 また、「この場合において、当該棚卸資産が土地又は土地の上に存する権利であり、その引渡しの日がいつであるかが明らかでないときは、次に掲げる日のうちいずれか早い日にその引渡しがあったものとすることができる。
(1) 代金相当部分(おおむね50%以上)を収受するに至った日
(2) 所有権移転登記の申請(その登記の申請に必要な書類の相手方への交付を含む。)をした日」とされています (法人税基本通達2-1-2)。

 一般的な不動産販売であれば、引渡基準によれば会計上も税務上も売上計上が認められます。
 しかし、税務で認められている代金の相当部分(おおむね50%以上)を収受した日に売上計上する方法については、実現主義の2要件のうち「財貨又は役務の提供」を満たしているとはいえず、会計上は売上を計上することは認められないとされています。

(3) 引渡しがあった日とは?

 以上から、不動産販売業では物件の引渡しがあった日に売上を計上することになりますが、この「引渡しがあった日」の判定については、裁判における判決の中で次のように判示されています。

「不動産の販売による売上げの計上時期については、不動産の引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入すべきであり、その判断は、諸事情を考慮し、現実の支配が移転した時期をもって行うべきである」(東京地裁 平9.10.27、東京高裁 平10.7.1)
「目的物の現実支配が移転した場合は引渡があったと認めるのが相当で、不動産の場合、売主から買主に登記関係書類が交付されたか否か、代金の全部又は一部が支払われたか、売主の合意によって所有権移転登記を経由したか否か等を指標として合理的に判断すべきものと解される」(福岡高裁 昭60.4.24、最高裁 昭61.10.9)