2以上の事業を兼営している場合の貸倒引当金の法定繰入率

 貸倒引当金の繰入限度額は、個別評価金銭債権と一括評価金銭債権とに区分して計算します。

 このうち、一括評価金銭債権については、原則として「貸倒実績率」を用いて貸倒引当金の繰入限度額を計算しますが、中小法人等は貸倒実績率に代えて「法定繰入率」を用いて計算することもできます。

 この法定繰入率は、1つの法人に対して1つの繰入率が適用されますので、1つの法人が2以上の事業を兼営している場合に、どの法定繰入率を適用するかが問題となります。
 以下では、2以上の事業を兼営している場合の貸倒引当金の法定繰入率について確認します。

1.法定繰入率

 法定繰入率は、下表のように事業区分によって決められています。

事業区分 法定繰入率
卸売及び小売業(飲食店業及び料理店業を含み、割賦販売小売業を除く) 10/1000
製造業(電気業等を含む) 8/1000
金融及び保険業 3/1000
割賦販売小売業等 13/1000
上記事業以外の事業 6/1000

 法人の営む事業が、上表におけるどの事業に該当するかは、日本標準産業分類(総務省)の分類を基準として判定します。

2.主たる事業の判定基準

 法人が2以上の事業を兼営している場合に、どの事業に該当するか(どの法定繰入率を適用するか)については、措置法通達57の9-4に次のように定められています(下線は筆者による)。

57の9-4 法人が措置法令第33条の7第4項に掲げる事業の2以上を兼営している場合における貸倒引当金勘定への繰入限度額は、主たる事業について定められている割合により計算し、それぞれの事業ごとに区分して計算するのではないことに留意する。この場合において、いずれの事業が主たる事業であるかは、それぞれの事業に属する収入金額又は所得金額の状況、使用人の数等事業の規模を表す事実、経常的な金銭債権の多寡等を総合的に勘案して判定する。

 つまり、2以上の事業を兼営している場合は主たる事業の法定繰入率を用いて計算し、どの事業が主たる事業であるかについては、以下の(1)~(3)の項目等を総合的に勘案して判定することになります。

(1) 各事業に属する収入金額又は所得金額の状況
(2) 使用人の数等事業の規模を表す事実
(3) 経常的な金銭債権の多寡

 なお、自己の計算において原材料等を購入し、これをあらかじめ指示した条件に従って下請加工させて完成品として販売するいわゆる製造問屋の事業(製造と販売を兼営)は、措置法通達57の9-5において製造業に該当するとされています。

 また、措置法通達57の9-4(注)において、法人が2以上の事業を兼営している場合に、当該2以上の事業のうち一の事業を主たる事業として判定したときは、その判定の基礎となった事実に著しい変動がない限り、継続して当該一の事業を主たる事業とすることができるとされています。

白色申告法人は貸倒引当金を設定することができるか?

1.個人事業主の場合

 貸倒引当金は、決算日における売掛金や貸付金などの金銭債権について、次期以降に貸倒れが生じると予想される金額を見積って設定します。
 貸倒引当金には、「個別評価による貸倒引当金(個別評価金銭債権に係る貸倒引当金)」と「一括評価による貸倒引当金(一括評価金銭債権に係る貸倒引当金)」があります。
 個人事業主については、「個別評価による貸倒引当金」は青色申告者、白色申告者を問わず適用できますが※1、「一括評価による貸倒引当金」は青色申告者だけが適用できます※2つまり、白色申告者は「一括評価による貸倒引当金」を設定することができません。
 では、法人についても、青色申告法人と白色申告法人で貸倒引当金の取扱いが異なるのでしょうか?

※1 白色申告者は、事業的規模の所得において個別評価のみ認められます。
※2 青色申告者は、事業的規模の所得において個別評価、一括評価が認められます。ただし、青色申告者であっても一括評価が認められるのは事業所得だけであり、不動産所得については認められません。

2.法人の場合

 法人についても、貸倒引当金は個別評価金銭債権と一括評価金銭債権とに区分して設定します。
 個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の適用対象法人は、次のとおりです(法法第52条第1項)。

① 期末資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等による完全支配関係がある子法人等を除く)
② 公益法人等又は協同組合等
③ 人格のない社団等
④ 銀行、保険会社その他これらに準ずる法人
⑤ 金融に関する取引に係る金銭債権を有する一定の法人(上記①から④までに掲げる法人を除く)

 また、一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定には、貸倒実績率を用いる方法(原則)と法定繰入率を用いる方法(特例)があります。
 前者の適用対象法人は上記①~⑤と同じですが、後者の適用対象法人は次のようになっています(措法57の9)。

① 期末資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等による完全支配関係がある子法人等を除く)
※ ただし、適用除外事業者(その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等をいいます)を除きます。
② 公益法人等又は協同組合等
③ 人格のない社団等

 個別評価金銭債権に係る貸倒引当金と一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の適用対象法人は以上のとおりですが、その適用対象法人が青色申告法人であることを要求するものとはなっていません。
 つまり、白色申告法人でも貸倒引当金を設定することができるということです。