1.改正の背景
国税庁は、2019年(平成31年)4月11日に「法人税基本通達の制定について」(法令解釈通達)等の一部改正案の意見募集(パブリックコメント)を開始しました(意見募集の受付締切日は同年5月10日)。
これまで法人が支払う定期保険等の保険料については、定期保険について規定した法人税基本通達に加えて、商品グループ(長期平準定期保険、逓増定期保険、がん保険などのいわゆる第三分野保険)ごとの個別通達で税務取扱いが規定されてきました。
しかし、保険会社各社の商品設計の多様化や長寿命化などにより、商品の実態と税務取扱いのルールが乖離してきていることから、商品の実態に合わせてピーク時解約返戻率(最高解約返戻率)に基づくルールを策定することになりました。
また、商品グループごとの税務取扱いが規定されている個別通達を廃止し、単一的な資産計上ルールが新設されることになりました。
今回の改正が行われる背景として、保険料に含まれる前払部分の割合が挙げられます。
保険期間が長期にわたる定期保険や保険期間中に保険金額が逓増する定期保険は、その保険期間の前半において支払う保険料の中に相当多額の前払部分の保険料が含まれており、中途解約すると、その前払部分の保険料の多くが返戻されます。
このような商品の実態に合わせてピーク時解約返戻率に応じて保険料の損金算入を制限しないと、課税所得の適正な期間計算が損なわれるからです。
2.改正の概要
(1) 対象となる保険商品
以下に該当する保険商品は、今回の改正の対象となります。
① 契約形態:法人契約(被保険者は役員又は従業員)、個人事業主契約(被保険者は従業員)
② 保険期間:3年以上
③ 保険種類:定期保険、第三分野保険
※ 支払保険料が給与とならないもの(受取人が法人の契約など)
(2) ピーク時解約返戻率に応じた取扱い
現行の個別通達は、保険期間や被保険者の加入年齢に着目して支払保険料の一部を資産計上する仕組である一方、新設の基本通達は、ピーク時解約返戻率に着目して資産計上する仕組となっています。
ピーク時解約返戻率に基づいて資産計上する理由について、国税庁は次のように説明しています。
「支払保険料に含まれる前払部分の保険料の額は、保険契約者には通知されず、把握できないことから、その金額を資産計上することは極めて困難となります。そこで、保険契約者が把握可能な指標で、前払部分の保険料の累積額に近似する解約返戻金に着目し、解約返戻率(保険契約時において契約者に示された解約返戻金相当額について、それを受けることとなるまでの間に支払うこととなる保険料の額の合計額で除した割合をいいます。)に基づいて資産計上すべき金額を算定することが、客観的かつ合理的と考えられます。また、毎年の解約返戻率の変動に伴い資産計上割合を変動させることは煩雑であり、その平均値などを求めることも困難であることから、特定可能な最高解約返戻率を用いて資産計上割合を設定するのが計算の簡便性の観点から相当です。」
具体的な保険料の取扱いは、ピーク時解約返戻率が50%以下の場合は全額損金算入となり、50%超(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる)の場合は、「50%超85%以下」と「85%超」でその取扱いが異なります(下表参照)。
ピーク時解約返戻率 | 資産計上期間 | 資産計上額(残額は損金) |
---|---|---|
50%以下 | なし | 全額損金算入 |
50%超70%以下 | 保険期間の前半4割相当の期間 | 支払保険料の4割 |
70%超85%以下 | 支払保険料の6割 | |
85%超 | 保険期間開始日からピーク時解約返戻率となる期間等の終了日 | 支払保険料×ピーク時解約返戻率の7割(保険期間開始日から10年経過日までの期間は9割) |
(3) 既存契約分への遡及適用はない
適用時期については、改正案で「2019年●月●日(改正通達の発遣日)以後の契約に係る定期保険等の保険料について適用される」ことが示されており、同日前の既存契約分への遡及適用はないようです。
※改正後の具体的な経理処理については、本ブログ記事「法人向け節税保険の改正後の経理処理」を参照してください。