電車やバスなどの公共交通機関を利用して通勤する従業員には、給与以外に通勤手当が支給されていると思われます(定期券など現物による支給を含みます)。
通勤手当のうち、通勤に通常必要であると認められる部分は、給与を支払う事業者の課税仕入れになります。
一方、公共交通機関ではなく、マイカーや自転車、徒歩で通勤する従業員もいます。これらの者に支給する通勤手当は、消費税の課税仕入れに該当するのでしょうか?
以下では、この点について確認します。
1.マイカー・自転車通勤者の通勤手当の非課税限度額(所得税)
所得税では、公共交通機関で通勤する場合と、マイカーや自転車などで通勤する場合の、非課税となる通勤手当の限度額が決められています(所得税法施行令第20条の2)。
電車やバスなどの公共交通機関を利用して通勤している場合の非課税限度額は、月額15万円とされています。
また、マイカーや自転車などを使用して通勤している場合の1か月当たりの非課税限度額は、片道の通勤距離(通勤経路に沿った長さ)に応じて決められています(例えば、片道の距離が2キロメートル以上10キロメートル未満の場合は月額4,200円まで非課税など)。
これらの非課税限度額は、通勤のための運賃・時間・距離等の事情に照らして、最も経済的かつ合理的な経路および方法で通勤した場合が前提となっています。
なお、所得税法施行令第20条の2は、通勤のため交通機関を利用することを常例とする者と、自動車その他の交通用具を使用することを常例とする者についての定めであり、徒歩通勤者についての定めはありません。
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2.通常必要であると認められる通勤手当は課税仕入れになる(消費税)
消費税における通勤手当の取扱いについては、以下の消費税法基本通達11-6-5(通常必要であると認められる通勤手当)に規定されています(下線は筆者による)。
11-6-5 規則第15条の4第3号《請求書等の交付を受けることが困難な課税仕入れ》に規定する「通勤者につき通常必要であると認められる部分」とは、事業者が通勤者に支給する通勤手当が、当該通勤者がその通勤に必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のために支出する費用に充てるものとした場合に、その通勤に通常必要であると認められるものをいう。
したがって、所法令第20条の2各号《非課税とされる通勤手当》に定める金額を超えているかどうかにかかわらないことに留意する。(令5課消2-9により追加)
上記基本通達のとおり、通勤に通常必要であると認められる通勤手当は、電車やバスなどの公共交通機関を利用する場合も、マイカーや自転車などの交通用具を使用する場合も、給与を支払う事業者の課税仕入れになります。
通勤に通常必要であると認められる通勤手当は、事業者の業務上の必要に基づく支出の実費弁償であり、事業者が課税仕入れに該当する定期券等を購入して通勤者に交付するのと同じであることから、通勤手当の支給も課税仕入れに係る支払い対価に該当するものとして取り扱われています。
なお、所得税法施行令第20条の2と同様に、消費税法基本通達11-6-5においても、徒歩通勤者に対する規定はありません。
徒歩通勤者の場合は、マイカーや自転車などの「交通用具」を使用するための支出が無いため、事業者が通勤手当を支給したとしても、その事業者の業務上の必要に基づく支出の実費弁償としての性格がありません。
したがって、徒歩通勤者に支給する通勤手当は課税仕入れに該当しません。給与として課税対象外(不課税)となります。
3.所得税の非課税限度額を超えても課税仕入れとなる
ところで、消費税法基本通達11-6-5には、「したがって、所法令第20条の2各号《非課税とされる通勤手当》に定める金額を超えているかどうかにかかわらないことに留意する。」という重要な一文があります。
これは、上記1でみたように、所得税では、公共交通機関を利用する場合は月額15万円、マイカーや自転車などを使用する場合は距離に応じて一定額の非課税限度額が定められていますが、消費税では、所得税の非課税限度額にかかわりなく、通勤に通常必要であるかどうかで課税仕入れの判断をすることを示しています。
したがって、例えば、所得税において給与課税される月額15万円を超える部分の通勤手当は、通勤に通常必要なものであれば、消費税の課税仕入になります。
非課税限度額を超えて給与課税される通勤手当は、給与なのだから不課税になるという誤解のないようにご注意ください。