譲渡所得の各種の特例における「居住用家屋」の範囲

 居住用財産(マイホーム)を売却した場合の特例には、「3,000万円特別控除の特例(措法35①)」、「軽減税率の特例(措法31の3)」、「買換え特例(措法36の2)」など従来から存在する規定と、2016年度(平成28年度)税制改正で創設された「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例(措法35③)」があります。
 従来から存在する規定と税制改正で新たに創設された規定では、居住用家屋の範囲が一部異なります。
 今回は、譲渡所得の特例における居住用家屋の範囲について確認します。

1.「3,000万円特別控除の特例」等における居住用家屋の範囲

 「3,000万円特別控除の特例」など従来から存在する規定における居住用家屋とは、生活の拠点として利用している家屋をいい、2棟以上の建築物から成る一構えの家屋も含まれます。例えば、母屋の他に単独で居住の用に供するに足りる機能を備えない離れ、隠居部屋、子供の勉強部屋、茶室、あずまや、土蔵等の別棟が該当します。 

 「3,000万円特別控除の特例」等は、個人が居住用家屋を譲渡した場合には、これに代わる新たな家屋を取得するのが通常であり、一般の資産の譲渡に比べて特殊な事情があり、担税力も高くないことを考慮して設けられた特例措置です。

 したがって、上述した建築物は譲渡者の生活の根幹に関わるものであり、別棟であってもその生活に不可欠な家屋は居住用家屋として特例の対象になります。

 なお、特例の対象となるかどうかは、日常生活の状況、入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定することとされています。

2.「空き家の3,000万円特別控除の特例」の被相続人居住用家屋の範囲

 これに対し、「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」における居住用家屋については、家屋が2以上の建築物から成る場合は、被相続人が主として居住の用に供していたと認められる一の建築物のみが該当することとされています。

 すなわち、母屋とは別棟の離れ、倉庫、蔵、車庫などがある場合には、その母屋と一体として居住の用に供していたときであっても、その母屋部分のみが特例の対象となる被相続人居住用家屋に該当することになります。

 また、被相続人居住用家屋の敷地等についても同様に考え、その敷地の面積に、2以上の建築物(母屋と離れなど)の床面積の合計のうちに一の建築物である被相続人居住用家屋(母屋)の床面積の占める割合を乗じた部分が被相続人居住用家屋の敷地等になります。

 「空き家の譲渡所得に係る3,000万円特別控除の特例」は、毎年増加している空き家の発生を抑制することで、地域住民の生活環境への悪影響を未然に防ぐために設けられた特例措置です。

 つまり、この特例は譲渡者の生活の根幹に関わるものではなく、家屋の耐震改修費又は解体工事費などが必要になるとはいえ、担税力は高いと考えられます。このような理由から、一の建築物(母屋)のみに特例が適用されます。