社外有識者に支払う対価の源泉徴収義務…給与か報酬か?

 製造業を営むA社の経理部長から、次のような質問がありました。

「社外から有識者を招いて新製品の企画・開発に関するプロジェクトチームを立ち上げることになったが、有識者に支払う対価に係る源泉徴収はどのようにすればよいか?」

 経理部長によると、プロジェクトチームのメンバーはA社の製品を取り扱うバイヤーや技術協力関係にある大学の研究員などで構成される予定です。
 経理部長は、これらの有識者に支払う対価が給与になるか報酬になるかで源泉徴収方法が変わるので悩んでいるとのことでした。

 以下で論点を整理しながら、この問いに対する回答を述べていきます。

1.所得税基本通達28-7の適用はあるか?

 有識者(個人)に支払う役務提供の対価は、雇用契約等に基づく労働の対価(給与)と業務委託契約等に基づく請負の対価(報酬・料金)に大別することができます。
 この場合、源泉徴収の方法は、給与所得に係る源泉徴収税額表と報酬・料金の10.21%のいずれかになることが多いです。

 今回、A社は有識者が所属する組織に派遣依頼をするのではなく、有識者個人に直接委嘱することにしています。そのため、給与と報酬のいずれに該当するか(源泉徴収方法をどうするか)という問題が生じているのですが、ここで以下の所得税基本通達28-7が適用されるかどうか検討が必要です。

(委員手当等)
28-7 国又は地方公共団体の各種委員会(審議会、調査会、協議会等の名称のものを含む。)の委員に対する謝金、手当等の報酬は、原則として、給与等とする。ただし、当該委員会を設置した機関から他に支払われる給与等がなく、かつ、その委員会の委員として旅費その他の費用の弁償を受けない者に対して支給される当該謝金、手当等の報酬で、その年中の支給額が1万円以下であるものについては、課税しなくて差し支えない。この場合において、その支給額が1万円以下であるかどうかは、その所属する各種委員会ごとに判定するものとする。

 この基本通達28-7は、国等が支給する各種委員への謝金、手当等は給与として定めていますが、A社のケースに直接適用されるものではありません。プロジェクトチームのメンバーの時間的な拘束、責任の所在、コストの負担状況等を総合的に勘案して判断しなければなりません

 会議への出席が義務付けられているメンバーは、会議の開催時には時間的拘束を受けます。会議でA社が求めるような結果が出なくても対価(日当)の支給は保障されています。また、会議での発言が発端となって問題が生じたとしてもA社がメンバーに責任を転嫁することはできません。
 これらを総合的に勘案すると、プロジェクトチームのメンバーに支給する対価(日当)は給与の色合いが濃いということができます。

2.所得税法第204条第1号~第8号に該当するか?

 もう1点、給与と報酬の区分を検討するにあたって、報酬・料金として10.21%の源泉徴収が求められている所得税法第204条1項第1号から第8号に限定列挙されている報酬・料金に該当するかどうかを確認しなければなりません。

所得税法第204条1項
 居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない。
1.原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み又はデザインの報酬、放送謝金、著作権(著作隣接権を含む。)又は工業所有権の使用料及び講演料並びにこれらに類するもので政令で定める報酬又は料金
2.弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
3.社会保険診療報酬支払基金法(昭和23年法律第129号)の規定により支払われる診療報酬
4.職業野球の選手、職業拳闘家、競馬の騎手、モデル、外交員、集金人、電力量計の検針人その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
5.映画、演劇その他政令で定める芸能又はラジオ放送若しくはテレビジョン放送に係る出演若しくは演出(指揮、監督その他政令で定めるものを含む。)又は企画の報酬又は料金その他政令で定める芸能人の役務の提供を内容とする事業に係る当該役務の提供に関する報酬又は料金(これらのうち不特定多数の者から受けるものを除く。)
6.キャバレー、ナイトクラブ、バーその他これらに類する施設でフロアにおいて客にダンスをさせ又は客に接待をして遊興若しくは飲食をさせるものにおいて客に侍してその接待をすることを業務とするホステスその他の者(以下この条において「ホステス等」という。)のその業務に関する報酬又は料金
7.役務の提供を約することにより一時に取得する契約金で政令で定めるもの
8.広告宣伝のための賞金又は馬主が受ける競馬の賞金で政令で定めるもの

 10.21%の源泉徴収が求められているのは、この所得税法第204条1項に限定列挙されている報酬・料金等であって、給与所得以外の報酬のすべてではありません。

 したがって、個人に支給する対価のうちで給与に該当しないものでも、所得税法第204条に限定列挙されている報酬・料金に該当しなければ源泉徴収は不要となります

 A社のプロジェクトチームの趣旨から判断すると、メンバーに支給する対価は所得税法第204条1項に限定列挙されている報酬・料金には該当せず、仮に報酬・料金であったとしても10.21%の源泉徴収は不要です

 結論として、A社がメンバーに支給する対価(日当)は、現況から給与と捉えて源泉徴収税額表の日額表乙欄で源泉徴収を行うことになります。

3.交通費の取扱い

 ここまでは、メンバーに支給する対価(日当)について述べてきましたが、もしA社がメンバーに交通費を支給する場合は、その取扱いはどのようになるでしょうか?

 今回A社が支給する対価は給与となりますので、交通費は非課税となります

 一方、今後委嘱の内容が変わって、A社が支給する対価が報酬・料金となる場合は非課税規定がないので、支給者であるA社が交通機関や宿泊場所へ直接支払った場合以外は、受領する個人側(メンバー)の収入として捉えることになります
 つまり、報酬・料金の場合には、原則的には支給された交通費を受領者の収入として計上し、実際の負担額を受領者の必要経費にします

 ちなみに、A社が「交通機関や宿泊場所へ直接支払った場合」というのは、インターネットで調べた適正額(概算額)を精算する方法ではなく、実際に支払った額が記載された領収書の現物を回収して行う精算のことです。